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HITOMI ISHINABE

「発想人」の視点

石鍋 仁美

日本経済新聞編集委員兼論説委員

_ PROFILE

入社以来、企業のマーケティングはもちろん、まちづくりや、若者、高齢化社会といったテーマを取材。
生活者のライフスタイルの変化をいち早くとらえて問題提起する、日本有数のトレンドウォッチャーとして活躍中。

発想とは、そこにあるのに「見えないもの」を可視化すること

発想を何か新しいことを創造することと捉えるなら、私には発想の才能はないと断言していいです。しかし、もっと広い視野に立って、すでに世の中に存在しているのに、まだあまり気づかれていないものを形として取り出す行為も発想と捉えるなら、その力は多少あるのかなという気がします。優れた仏師は、頭の中に浮かんだ姿を再現するのではなく、木の中にすでに存在している仏を取り出すつもりで彫るのだとか…。これは漫画の『ガラスの仮面』から仕入れた知識ですけど(笑)、記者である私にとっての発想とかなり近いものがあります。「見えないもの」を可視化する。世の発想の媒介者というイメージです。

近年、映像メディアの進化と広がりによって「見えるもの」の描写はますます盛んになっています。その分、活字メディアでは「見えないもの」をすくい取る記事の重要性が、逆に増していると思っています。

見て、感じて、取り込んで共鳴する

「見えないもの」を掴むためには、世の中に入って、とにかくたくさん見ることが必要です。その際、気をつけているのは、目的意識を持たずに見ること。ぼんやりと見るし、ぼんやりと聞く。「次のトレンドを見つけよう」として見ると、切り取り方がステレオタイプになりがち。ニュートラルな立ち位置でぼーっと見るようにしています。そして、当事者の気持ちになってみる。対象ではなく、自分の内にある‘その人’を見つめる。「わが内なるベトナム」ならぬ「わが内なる女子高生」といったふうに。対象との共通点を見つけて橋を架けることで、初めて腑に落ちる気がします。

見るだけでなく、追体験することも大事です。現場に行って、五感で感じ取ったものが発想につながっていく。昔、地べたに座る若者が増えたとき、多くの大人は批判的でした。でも実際に自分も座ってみると、そこからは違う風景が見えた。高校生たちの新しいコミュニケーションの形も見えてきました。店の取材では必ず自腹で何かを買う気持ちで臨む。批判や批評の前に、まず当事者になってみることは、発想を掴む大きな一歩だと思います。

整理された情報を疑う

発想の基盤となるものは情報だと思いがちですが、2次情報だけを頼りにすると落とし穴にはまります。ネット時代になって、驚くほど多くの人が情報発信を行っているから、一見、便利そうなのですが、そこには「情報を発信したい人の情報」しかないのです。だから、まず疑う。官庁の「白書」類も含め、整理された情報は、一通り疑ってかかります。整理されているということは、整理した人の物差しで測られているから、何かが増長されたり強調されたりしている。そこからこぼれたところに、発見があるのではないかと考えるのです。

商品やサービス、商業施設等も、それぞれに開発意図がありますよね。「○○をターゲットとして××を提供したい」といった具合に。もちろんそうしたものも取材します。でも、それだけでは不十分。開発者自身も気づいていない、そこに至るまでの背景と構造を考え、浮かび上がってくるものを構造化していく。それを見出すのが、私の仕事です。

常にアウトプットを意識し、意味を探る

発想体質になるための努力は…、強いて言えば、アウトプットを考えることですね。街を歩いていても、テレビやネットを見ていても、いつも記事を書くことを意識しています。その上で、常に意味を考えている。どういう流れでこの現象は現れたのか…、なぜこの人はこうした行動をとるのか…。人間が起こしている現象であるなら、その心理や価値観を想像してみる。問題意識を持って目の前の「今」を見ると、時間軸の中での因果関係や蜘蛛の巣のような影響の相互作用が見えてきて、そこから「未来」が推測できるのです。

ただ、それは理路整然とした作業ではないんですよ。発想を助けるための、たとえば有名なKJ法や超整理法も、結局は整理することの薦めですが、私のやり方は正反対。とりあえず頭の中にほうり込んで、あえて散らかしたままにしておく。よく言うと発酵させている。そこにキーワードや際立った事象を放り込むと、くっ付いてくるものがある。そうやって発想しているような気がします。

発想は多様な価値観と表裏一体

世の中のトレンドを記事にするとき、何を主語にするのかを考えます。政治なら「首相は~」というように、記事には主語があります。見えるのは行動、つまり述語です。その現象を、何を主語にして書くのか。もし、かつてなかった主語を発見できたら、それはすごい記事なる。たとえば「女子高生」を主語に初めて書いた先輩記者は、やはり時代を見事に切り取ったと思います。「シニア」もそうですね。その主語の動きを追うと全く違う社会の動きが見える。そんな主語を見つけたいと、いつも考えています。

ここ数年、「コワーキング」や「シェアハウス」といった、従来と違った形でのつながりを持ち始めた若い人たちが増えてきました。「つながり世代」とでも呼ぶべき彼らは、新しい主語となり得るのでしょうか。そこには確かに素晴らしい発想がある。もしかしたら、彼らは金がないから知恵を出しているのかもしれない。でも、それはとてもいい適応の仕方でしょう。違う価値観を持つ人がお互いのいいところを認め合い、シェアし合って、ストレスの少ない豊かな生活を築いていこうとしている。私は、発想は多様な価値観と表裏一体だと思っています。多様な価値観が共存できる社会は楽しい。それを発想社会と呼ぶなら、日本もそういう社会であってほしいものです。

Photo:Yoshiro Hayakawa

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